オールハート動物リファーラルセンター
獣医師 雲野
症例情報
犬 ダルメシアン 2歳3ヶ月 去勢雄
稟 告
5日前よりの食欲不振、元気消失、嘔吐を主訴にかかりつけへ来院。
腹水貯留の精査のためCT撮影、導尿処置によって尿道閉塞と診断。
膀胱破裂による腹水貯留(尿)と診断され、治療を目的に当院へ急患として紹介来院された。
身体診察所見
体重:23.78kg 体温:37.4℃ 心拍数:120回/min
脱水<5%
心雑音なし
可視粘膜色:正常
<血液検査> 主要項目のみ表示
HCT 64%
WBC 30430/μL
BUN 128mg/dL
Cre 10.1mg/dL
Na 144mEq/L
K 4.4mEq/L
Cl 105mEq/L
<X線検査>
胸部:心陰影は縮小
腹部:漿膜面ディティールの低下
<腹部超音波検査>
腹水が多量に貯留
膀胱内は軽度に尿貯留あり。少なくとも2つ結石様構造物が認められる。
腎盂拡張なし
<腹水検査>
TP1.7
Cre34.5
比重1.018
診 断
尿道閉塞による膀胱破裂
手 術(当院初診日、第0病日とする)
腹部正中切開によりアプローチした。膀胱は顕著に暗赤色~赤色に変色していた。
膀胱漿膜と周囲組織の癒着を剥離、膀胱腹側に破裂部位を認めた。
膀胱内の結石を除去した。破裂部位の周囲の粘膜は黒色に変色しており、血流が認められなかったため一部を切除し、血流が確認される部位で縫合。
腹腔ドレーン、尿道カテーテルを設置し閉腹した。
外注検査
<結石分析>
尿酸アンモニウム
<腹水の細菌培養検査結果>
陰性
経 過
第1病日
血液検査 BUN 34mg/dL Cre1.7mg/dL
食欲や活動性は改善傾向。
第4病日
排尿状況は頻尿、尿失禁のような状況が続くものの、食欲や活動性は依然として良好であり退院とした。
第5病日(電話によるフォローアップ)
随意排尿はできているとのことであった。
活動性食欲は良好であった。
まとめ
尿道閉塞は緊急疾患である。閉塞が長期に続く場合には、本症例のように尿閉から膀胱破裂する危険性もある。術中所見では重度の膀胱炎も併発していた。犬や猫の膀胱破裂の原因は、交通事故などの外傷によるものが一般的であるが、尿道結石を繰り返す症例や膀胱結石を認める症例も注意が必要である。特にダルメシアンは尿酸アンモニウム結石に罹患しやすいと報告されており、食事療法による再発防止が推奨される。また、食事療法や内科治療に効果が無く、繰り返すような尿道結石には永久的尿道瘻設置術も検討すべきである。
この記事へのコメントはありません。