1) オールハート動物リファーラルセンター
2) ダクタリ動物病院 まちだドギーリーグ
3) とよだペットクリニック
4) 東京大学 画像診断科
1) 雲野祥平 鈴木克哉 小野かおり 楯彩花 接待創太 井出雅子 池田人司
2) 後藤理人
3) 御厨純
4) 池田彬人
はじめに
小動物臨床において子宮捻転は片側または両側の子宮角に捻転を生じる稀な病態である。子宮の捻転は正常な子宮においても発生するが、妊娠や子宮疾患に続発すると考えられている。捻転は子宮角への血液供給の閉塞を引き起こす。静脈流出は動脈流入よりも大きな影響を受け、静脈鬱血、組織浮腫、および関連する組織は最終的に梗塞、壊死につながる。子宮動脈の破裂は出血性ショックにつながり子宮破裂、敗血症により死亡する危険性がある。今回、CTにより臓器の捻転を示唆するWhirlpool signにより子宮捻転を疑い、外科手術により確定診断が可能であったので報告する。
症例
チワワ 雌 11歳 1.7kg
既往歴
僧帽弁形成手術(約3年前)環軸亜脱臼手術(約7年前)
現病歴
数日前より食欲低下、軟便、腹囲膨満を主訴にかかりつけを受診した。
特記事項
超音波検査で左腎臓頭側の5cm大の液体を貯留する腫瘤を認めた。また、子宮の拡張も認めた。とのことで紹介受診となった。
RBC | 3.85 M/uL | TP | 6.1 g/dL | PT | 7.1 秒 |
---|---|---|---|---|---|
HCT | 24.8 % | ALB | 2.9 g/dL | APTT | 18.2 秒 |
HGB | 8.6 g/dL | GLOB | 3.3 g/dL | Fib | 288 mg/dl |
MCV | 64.4 fL | ALT | 130 U/L | ||
MCH | 22.3 pg | ALP | 142 U/L | ||
MCHC | 34.7 g/dL | GGT | 0 U/L | ||
%RETIC | 4.3 % | TBIL | 0.3 mg/dL | ||
RETIC | 165.6 K/uL | CHOL | 139 mg/dL | ||
WBC | 19.11 K/uL | GLU | 70 mg/dL | ||
NEU | 12.54 K/uL | BUN | 16 mg/dL | ||
Band | 0 K/uL | CREA | 0.5 mg/dL | ||
LYM | 5.3 K/uL | PHOS | 4.1 mg/dL | ||
Mono | 1.1 K/uL | Ca | 9 mEq/L | ||
EOS | 0.1 K/uL | Na | 153 mEq/L | ||
BAS | 0 K/uL | K | 4.1 mEq/L | ||
PLT | 141 K/uL | Cl | 111 mEq/L | ||
T4 | 4.2 ug/dL | ||||
CRP | 1.4 mg/dL |
体温:38.7℃ 心拍数:132回/分 左胸壁Ⅱ/Ⅵ 収縮期雑音 BCS 4/9
血液検査所見
初診時エックス線検査
腹部:上腹部~中腹部に不透過性亢進した腫瘤性病変(6.5×4.7cm)を認める。
超音波検査:左上腹部に液体および実質性の乳頭状構造物を含む大型腫瘤性病変が存在。(6.4×3.7cm)。腫瘤性病変は子宮と連続性があるように見える。子宮は体部の近くで、一部が拡張し、砂粒上のエコー源性を認める。以上より子宮卵巣疾患が疑われた。
CT検査:左子宮角基部および左卵管領域にwhirlpool signを形成し、これらの間の左子宮角はCT値30HU前後の液体貯留を伴って重度に拡張しつつ(最大径70mm前後)、腹腔内右側領域に変位している。左卵巣は前述の変化に伴い腹部正中寄りに変位しているものの、有意な形態異常は認められない。右子宮角内腔も液体貯留を伴って嚢状に拡張している(最大径15mm前後)。軽度の腹水貯留を認める。
プロブレムリスト
中程度の再生性貧血、CRP軽度上昇、好中球上昇、単球増加症 子宮の異常
暫定診断
左側子宮角の捻転を疑う
外科手術:腹部正中切開によりアプローチした。左側の子宮角の一部は虚血、壊死が見られた。全身循環へのエンドトキシンの放出を防ぐために、除去前に子宮の捻転を解除せずに卵巣子宮摘出術を行なった。
結果
順調に覚醒した。
病理診断 ノースラボ
子宮:出血、壊死 hemorrhage and necrosis 子宮水腫 hydrometra
卵巣:著変認めず。
子宮では、左子宮角において、子宮内膜に顕著な出血や壊死が起こっており、組織構造は不明瞭となっている。内腔は拡張し、血液が貯留している。右子宮角では、内腔は拡張し、内膜は菲薄化している。左右の卵巣では、複数の卵胞が形成されている。子宮では、左子宮角において、重度の出血や壊死が起こっている。全層性の壊死が起こっており、捻転による局所の循環障害により引き起こされた病変と考えられる。基礎疾患となるような腫瘍性の病変などは確認されない。また、右子宮角では、内腔の拡張が起こっており、子宮水腫と判断されるが炎症性の病変は認められない。両側の卵巣には著変は認められない。
まとめ
我々は犬の稀な疾患である子宮捻転に遭遇した。CTでは臓器の捻転に特徴的なwhirlpool signが見られ、子宮捻転が示唆された。過去の報告において、whirlpool signは脾捻転、結腸捻転、腸間膜捻転、精巣捻転、肝葉捻転において報告があるが、我々の知る限り、子宮において過去の報告がない。卵巣子宮摘出術によってのみこの疾患の治癒が期待できる。しかしながら対応が遅れた場合、出血性ショック、敗血症などにより死亡するリスクがある。
この記事へのコメントはありません。