ダクタリ会
オールハート動物リファーラルセンター
池田 人司
2023年3月20日〜コロラド州立獣医科大学(CSU)へ獣医師の継続教育を目的とした訪問を行った。今回は開業獣医師4名、勤務獣医師2名、フリーランス麻酔科専門医1名、大学教員1名、大学院生1名、学生2名の合計11名でのツアー参加となった。Covid-19の影響でCSUも極端な人手不足に陥っておりCSU VTH(教育病院)も急患の受け入れ体制も24時までとなっていた。当然ながら我々、Visitorにも人数制限が設けられた。ダクタリ会からはダクタリ動物病院品川ウェルネスセンターの宮崎先生が参加された。加藤院長との訪問は2020年の3月であり、Covid-19パンデミック直前のことであった。当時、訪問中に困難な場面(当時、アジアが起源の未知の呼吸器ウイルス感染症)に直面し、訪問を途中で中断し帰国せざるを得なかったが、念願かなって3年ぶりにリベンジ訪問の機会を得た。
初めに4日間VTHを各々がVisitorとして疼痛管理・麻酔科、腫瘍科、軟部外科、ICU集中治療科などの各セクションへ個別に訪問を行った。私は日頃から専ら整形外科に従事しているためブラッシュアップと知識の整理を目的に4日間を通して整形外科のクリニックに参加した。今年からACVSの外科のレジデントを始められた日本人のDr.Azumaが整形外科ローテの週であり、彼の診察や手術に同行する機会を得た。ファカルティはDr.GhoがOnクリニックの週であり、脱臼、骨折、TPLO、関節鏡など、学生、レジデントなどにわかりやすく実際の患者の治療を通じて臨床教育を行っていた。ファカルティと学生とのディスカッションのレベルの高さにも驚かされるが、4年生はすでにVTH内では獣医師としての医療行為が認められているので、外来診察を担当し、病気の説明、治療方針、手術費用の見積もり、予後、手術の合併症、鎮痛剤、投薬に関する注意喚起なども行う。もちろん、診断や治療方針に困ったことがあればレジデントやファカルティにいつでも相談できる。臨床現場=教育現場であり、すべてのセクションにおいて教育病院としての共通のコンセプトが整備されている。また、各科の横のつながりも非常に重要視されており、とくに整形外科では跛行を扱うことも多いので、神経科、リハビリテーション科との連携も頻繁に行われている。教育病院での主役は学生であり、その周りには経験豊富なVT、インターン、レジデント、ファカルティがサポートを行う。つまり教育病院全体が常時、学生教育のためにオーガナイズされた協力体制にあり、非常に素晴らしい教育環境を創造している。犬猫馬のご家族もCSU VTHという性質をよく理解しており、動物たちが治療の甲斐なく死亡、安楽死した後は遺体のドネーションを行う機会も多く、リサーチやキャダバートレーニングへと役立てることができる。根本的な教育システム、学生の選抜方法など多岐に渡り、我が国とアメリカでは獣医学、獣医療について大きく遅れをとっていると言わざるを得ない。我が国とは歴史、文化的背景や宗教的な価値観の違いがあるので“遅れ”の一言で片付けることはできないが、一人でも多くの方に、CSU VTHへのVisitingを行なっていただき肌で成熟された獣医療の現場の空気に触れていただきたいと思う。このツアーを実現するにあたりMAX松浦氏には各方面にアレンジをしていただき大変お世話になった。多大なご尽力に対し、この場を借りて感謝申し上げる。また、次回こそは加藤院長とのCSU訪問を熱望している。
VTH 正面玄関
馬のMRI検査
大型のCアームをつかった心臓ペースメーカー設置術
整形外科の手術室、ピレネー犬の大腿骨骨折をインターロッキングネイルで治療を行う
言わずと知れたCSUには世界一の腫瘍科がある。
ACVSのレジデントDr.Azumaと
AAHA会長のガース氏、お世話になった松浦氏
2023 コロラド州立獣医科大学(CSU)SPUR 視察レポート編に続く
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